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排尿機能障害(尿失禁)

2023年11月10日

尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が勝手にもれてしまう状態をいいます。そのことによって社会的、衛生的に支障を生ずるものとされています。

尿失禁とは

正常の排尿では、特に努力せずとも無意識の状態で尿を膀胱に保持(蓄尿)し、尿意を覚えた時、または尿意を覚えなくとも意識的に尿を排出(排尿)することができます。尿失禁とは、これらの機能が損なわれた状態(自分の意志とは関係なく尿がもれてしまう)を指し、加えてこれにより社会的・衛生的に支障を生じるものと定義付けられています。

尿失禁の分類について

尿失禁は次のようなものがあります。

腹圧性尿失禁

膀胱を支持する骨盤底の筋肉や、尿道の括約筋の機能が低下している状態でおこりやすいもので、強い尿意を伴わなくても、くしゃみ・階段の昇り降り・重いもの持つなど、おなかに強い力がかかる動作時におこる尿失禁です。

男性に比べ、前立腺が無く尿道が短い、尿道抵抗の小さい女性に多く、とくに出産を経験している中高齢の女性では骨盤底の筋肉の弱さも手伝って起りやすいようです。前立腺癌に対する根治的前立腺摘除術後の男性にも見られることがあります。35歳以上の女性の約半数近くが、このタイプの尿失禁を経験したことがあるとのアンケート結果もあり、推定では女性の4割を超える2,000万人以上が悩まされているとも言われています。

切迫性尿失禁

膀胱や尿道の働きの正常な成人においては、蓄尿時(排尿時以外の膀胱に尿をためている状態の時)には膀胱がある程度充満しても膀胱内の圧力は上昇せず、排尿しようという意志によって膀胱の収縮が始まり、実際の排尿が起こります。ところが蓄尿の際に、急激に強い尿意(尿意切迫感)とともに意志に反して膀胱の排尿収縮が始まってしまい、実際に排尿の準備ができる前に漏れてしまうものを「切迫性尿失禁」といいます。

脳や脊髄の病気から引き起される膀胱の働きの障害(神経因性膀胱)による場合もありますが、膀胱を調整する神経機能は年齢とともに機能が低下してきますので、明らかな神経疾患はないのに、加齢によりおこってくることもあります。また、膀胱炎や前立腺炎などにおいても、強い炎症性の刺激によりおることがありますし、前立腺肥大症などの下部尿路の閉塞によりおこる場合もあります。

溢流性尿失禁

下部尿路の通過障害や膀胱収縮力の障害によって尿の排出が妨げられ、膀胱内に多量の残尿が生じた場合、膀胱容量・膀胱内圧が限界に達して、尿道抵抗を上回って尿が漏れ出す(あふれだす)状態をいいます。

機能性尿失禁

膀胱自体の働きには異常がないのにも関わらず、トイレ以外のところで尿を漏らすものをいいます。足腰が不自由ですぐにトイレまで行くことができずに途中で漏れてしまうとか、認知症などでトイレでないところをトイレと思って排尿してしまうような場合などがあります。

診断について

まず、十分な問診が必要です。失禁の状況、これまでかかった病気や手術の有無、内服している薬剤などを聞き取ることで、大部分の尿失禁のタイプを推測することができるとされます。その上で、必要な検査を行なって診断をつけ、治療をします。

尿検査

膿尿や血尿の有無を調べ、炎症、結石症、腫瘍などの併存疾患がないか、確認します。

排尿日誌

排尿時間や排尿量、尿失禁の有無を実際に患者さんが自分で記録していただき、実際の失禁を含めた排尿状況を把握して、診断や治療方針の決定、治療効果の評価に用います。

尿流測定検査、残尿量検査

尿の勢い、残尿量を調べることで、尿失禁をきたす膀胱や前立腺、尿道の疾患を推定していきます。残尿量は、以前は細い管(カテーテル)を尿道から入れて導尿して調べていましたが、最近は超音波検査で痛みを伴わずに簡単に調べることができます。

尿失禁定量テスト

飲水後、咳や運動などを行って実際にパッドにどの位尿が漏れたか、その失禁量を定量する検査です。

画像検査

膀胱造影では、膀胱の形態や尿道との角度、周囲臓器との位置関係をみることで、特に腹圧性尿失禁の状況を調べるのに役立ちます。また排泄性腎盂造影を行って、尿路の形状を調べ、失禁の背景や原因を検索することもあります。

膀胱内圧測定、尿道括約筋筋電図検査

膀胱内にいれたカテーテルを用いて、膀胱に生理食塩水、または滅菌水を注入しながら膀胱内の圧力を調べます。膀胱の不随意収縮の有無や尿道括約筋の状況がわかり、失禁の原因を調べるのに有用な検査です。

治療について

尿失禁は、生活の質を損なうという疾患です。したがって、その失禁の原因、重症度、患者さんの悩みや治療に対する希望は一人一人で異なります。悪性疾患などのように、病期が決まれば治療方針が決まるのではなく、年齢、身体の状態、生活スタイルなどを踏まえて、満足が得られる治療法を選択して行っていくことになります。

生活指導・膀胱訓練

腹圧性尿失禁の方には、肥満を避ける、便秘を改善させるなど、腹圧をかかりにくい状況を作るなどの指導を行います。機能性尿失禁の方には、トイレ環境の整備や、排尿しやすい着衣などの検討、定時での排尿の誘導、身体運動能力の向上を目指したリハビリテーションなどをおすすめします。切迫性尿失禁の方には、排尿間隔を少しずつ延ばして膀胱容量の増加を目指す、膀胱訓練法を試してみることもあります。いずれも、失禁の状況を十分検討・理解したうえで、有効かつ適切と考えられる対策をとっていきます。

薬物療法

腹圧性尿失禁においては、尿道括約筋の力や尿道抵抗を増やす薬剤とか、膀胱収縮を抑制する薬剤を組み合わせて使用しますが、効果が不十分な場合も比較的多く、外科的治療を行うこともしばしば見受けられます。不随意の膀胱収縮が問題となっておこる切迫性尿失禁の場合には、膀胱収縮を抑える薬剤の服用が非常に有効です。しかし、この種の薬剤は、唾液の分泌を抑えることからくる口渇や、腸の動きを抑えることから生じる便秘などの副作用が問題となることがあり、注意を要します。

手術療法

生活指導や薬物療法で効果の得られない腹圧性尿失禁に対して行われます。最近では、膀胱頸部挙上手術、膀胱頸部スリング手術など、膀胱と尿道の角度を調節し固定することで失禁を改善させる方法が一般的方法として広く行われており、長期にわたる良好な成績が得られています。また、尿道周囲コラーゲン注入療法という、内視鏡を用いて膀胱頸部や尿道にコラーゲンを注入して尿道抵抗を増加させることを目的とした手術もあります。前述のものに比べて手術侵襲が小さく容易に行うことができますが、再発率が高く次第に行われなくなってきています。

その他

高度の前立腺肥大症や尿道狭窄などが原因の溢流性尿失禁に対しては、それぞれの疾患に応じた手術治療が、薬物療法の効果が不十分な膀胱収縮力の低下した溢流性尿失禁に対しては、間欠的自己導尿法などの治療が行われます。