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病気について知る

前立腺肥大症

2023年11月10日

前立腺の内側に発生する良性腫瘍です。発症原因は明確にされていませんが、日本における食事の欧米化や加齢、男性ホルモンが主たる原因と言われています。当院では前立腺肥大症に対してホルミウムレーザ前立腺核出術(HoLEP)を行っております。HoLEPは出血や術後の疼痛が少なく、血液をサラサラにする薬を服用している方でも比較的安全に手術が可能です。

HoLEP治療件数(件)

2019年度 57
2020年度 55
2021年度 46

前立腺肥大症とは

前立腺は男性特有の臓器で、精巣(睾丸)から分泌される男性ホルモン「テストステロン」の影響を受けて、次第に大きく増殖していきます。前立腺の中央を尿道が通っているため、この前立腺の腫大により尿の流れがさまたげられて、排尿困難、頻尿などの様々な症状が発生します。

これが前立腺肥大症と呼ばれる病気です。近年の高齢化社会の訪れとともに、前立腺肥大症患者数は、1987年には20万人であったものが、1998年には50万人へと著明に増加しており、現在もその傾向が続いています。男性に特有の、そして高齢の男性には避けて通れない疾患と言えます。

疫学と成因について

前立腺は、膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むように存在しています。すぐ後ろには直腸があるので、泌尿器科などで前立腺を診察する際には、肛門から指を入れるとすぐ触れることができます。その働きは、主に精液の15~30%を構成する前立腺液を産生することです。この前立腺液は、精子を保護し、栄養を与え、運動機能を活発にするとされ、子孫を残すための重要な働きを司っています。

前立腺は、男性ホルモン「テストステロン」の働きにより増殖が起こります。思春期頃までに、ある程度の大きさまで成長した後、しばらく一定の大きさにとどまります。しかし40歳ころから、前立腺の内腺と呼ばれる内側の部分が増殖を始め、50歳代で約半数、80歳代では80~90%の男性に、組織の肥大がみられるとされています。現在の高齢化社会において、男性では避けて通れない疾患の一つと言えましょう。様々な研究が行われているにも関わらず、その肥大の原因はまだ明らかではないため、有効な予防法は今のところまだありません。

症状について

前立腺肥大症の症状には、様々なものがあります。軽度の前立腺肥大症においては、夜間頻尿や残尿感、尿道や会陰部の不快感などの症状が現れてきます。さらに前立腺の肥大が進むと、前立腺部尿道の排尿時の抵抗が増加するため、尿が出にくい、勢いが弱い、尿腺が細い、尿が出始めるまでに時間がかかる、排尿が始まってから終わるまでにも時間がかかる、尿の切れが悪いという症状が出てきます。

この頃になると、残尿感のみならず、実際に残尿量の増加が見られてくることも、しばしば見受けられます。残尿の増加により、尿路感染症も合併することがあり、排尿時の痛みや尿の混濁も出現する場合が出てきます。飲酒や風邪薬の内服により、排尿困難が悪化し、尿が出なくなる「尿閉」という状態になることもあります。前立腺肥大が高度になると、残尿量が大量となり、下腹部に尿で充満した膀胱を触れるようになったり、膀胱に溜まりきらない尿が漏れでてきたり、腎臓の働きまで低下してしまう場合もあります。

診断について

前立腺肥大症の診断で一番重要なのは、前立腺癌との鑑別です。前立腺特異抗原PSAの測定や超音波検査を行い、癌が疑われる場合には前立腺生検を施行して、癌を見落とさないことが肝心です。

前立腺肥大症の自覚症状の程度については、現在、国内外で「国際前立腺症状スコア(IPSS)」というアンケート形式の質問紙が広く使用されています。これにより非常に簡便に、患者さんひとりひとりの症状を客観的に評価でき、さらに診断や治療方針決定、ならびに治療効果の判定にも有用です。

実際に、前立腺がどの様な状態になっているかを調べる検査には、直腸診と超音波検査があります。直腸診は、肛門から人差し指を入れ、前立腺の形状を調べるもので、炎症や癌との鑑別にも役立ちます。超音波検査では、前立腺の大きさ、形、内部の情報を客観的に調べることができるため、簡便で有用なものと言えます。また、排尿の勢いが実際にどの程度低下しているか、排尿後どのくらい膀胱に尿の残りがあるか調べる、尿流測定・残尿測定検査も重要です。尿を貯めた状態で機械に向かって排尿し、終了後に超音波で残尿を調べますので、痛みを伴わず簡単に排尿状態がわかる検査です。これらの検査を組み合わせて、前立腺肥大症の状態を診断していきます。

治療について

先にものべましたが、50歳を超えると、半数以上の方々に前立腺の肥大がみられますが、実際に排尿の症状でお困りになっていない方々も多数いらっしゃいます。「前立腺肥大症を放置すると癌に移行するのでは?」と心配して相談される方もおられますが、現時点でそのような証明はなされていません。癌が隠れていないかPSA等で検査して異常が無く、かつ症状が問題にならない方には、治療は必要ないのです。

様々な症状が出てきた場合には治療の対象となります。しかし、前立腺肥大症は悪性疾患、いわゆる癌ではないため、「この治療が絶対に必要」というものはありません。また、肥大症の患者さんは比較的高齢で、色々な合併症をお持ちの方も多くみられるため、患者さん各々の症状、身体の状態、肥大の程度を総合的に判断したうえで、適切な治療を選択していくことになります。そのため、前立腺肥大症の治療には、様々なものが用意されています。

一般的には、薬による治療が最初に行われます。前立腺の中を通る尿道を広げて通りを良くしたり、頻尿などの症状を改善させたりする薬が、広く普及しています。いずれも副作用が少なく、他の病気で内服している薬とも比較的安全に併用できる薬が多数開発されており、軽度から中程度までの肥大症の治療に非常に有効です。しかし、前立腺自体を縮小させる効果が無いため、長期間にわたって内服する必要があることや、程度の強い肥大症には効果が不十分であるという弱点があります。

尿の勢いが内服治療を行っても効果が不十分、残尿が多い、尿閉を繰り返す等の際には、麻酔をかけて行う手術治療が必要となります。開腹せずに尿道から内視鏡を入れて電気メスで前立腺を切除する「経尿道的前立腺切除術:TURP」は、古くから行われており、前立腺肥大症の標準的な手術治療として現在でも広く行われています。また、出血を少しでも抑えるためレーザーを用いて前立腺を切除する「直視下レーザー前立腺切除術:VLAP」や、高出力のローラーで組織を蒸散させる「経尿道的前立腺電気蒸散術:TVP」なども、合併症を少しでも回避する目的で行われています。

これらの手術療法により、開腹して前立腺を摘除する手術は、現在では稀なものとなりました。最新のレーザー治療としては“HoLEP”と呼ばれる前立腺核出術が当院で可能です。ホルミウムヤグレーザーという種類のレーザー光を照射し、肥大した前立腺腺腫を安全確実に切除していく手術です。また、出血、術後の疼痛が少なく、入院期間の短縮や抗凝固薬を内服されている方でも安心して受けて頂ける手術方法となります。

その他にも、尿道表面麻酔のみで行うことのできる治療もあります。電子レンジで使用されているマイクロ波を用いて、前立腺を45℃以上に加熱して組織を変性・縮小させる「経尿道的マイクロ波高温度療法:TUMT」は、非常に安全・簡便で、出血をほとんど伴わない治療です。しかし、前立腺の大きさや形態によって効果が得られない方もいるため、治療前の十分な検査が必要です。

身体の状況で手術が困難な方には、狭くなっている前立腺部尿道に、ステントといわれる筒状のチューブを留置して広げ、尿の通りを良くする治療法もあります。いずれの治療法も、当院で実際に行っているものばかりです。治療にあたっては、患者の皆さんの症状、前立腺の状況に合わせて、十分な検査、相談、説明、納得のもと、適切な治療を選択して行っていきます。