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病気について知る

尿路結石症

2023年11月10日

腎臓から尿道までの通り道に石(カルシウム、蓚酸、リン酸などが結晶化したもの)ができる病気です。石を構成している物質は、通常尿中ではそれぞれ飽和状態で存在していますが、食生活・環境・ストレスなどの原因でこのバランスがくずれると、結晶が形成されやすくなってしまいます。当院では年間約600件以上の治療を行っており(2021年度実績)、旭川市内に限らず、名寄、士別など道北地域を中心に市外からも受診いただいております。

2021年度 結石治療件数(件)

ESWL 390
TUL(レーザー含む) 207
その他結石摘出術 38

腎・尿管結石とは

尿路結石症は、腎臓で出来た結石が、尿の通り道の腎臓・尿管・膀胱・尿道で大きくなったり引っ掛かったりして、様々な症状を引き起すものです。特に尿管結石は激しい痛みを伴うことがあり、急性腹症と呼ばれる、救急車で運ばれるほど強い症状をきたす病気の一つです。

結石症患者数は、ここ30年の間に男女とも2倍に増えてきており、単に結石を自然に排石させたり破砕したりするという治療を重視する時代から、その予防にも力を入れる時代に入って来ていると言えます。

疫学と成因について

尿路結石症患者は、年々増加しています。1995年の全国集計では、その30年前の1965年に比べ、生涯罹患率(一生のうちに結石症になる率)は男女とも2倍になり、男性で9%、女性で3.8%と報告されています。また、5年で45%の患者さんに結石が再発します。一度結石を患った方は、定期受診観察などで、長期間にわたって再発の有無を注意してみていく必要があると言えます。

尿中には、様々な物質が溶け込んでいますが、カルシウム・シュウ酸・リン酸・尿酸などが、何らかの原因で過飽和状態、すなわち溶けきれない状況になると、主に腎内でこれらの物質が結晶を形成、さらに凝集成長して尿路結石となります。尿の流れが停滞している、尿路に感染が起っている、水分摂取が少なく脱水状態となり尿が濃縮されている、これらはいずれも結石が発生しやすい状況とされています。

その他にも、体内のカルシウムのバランスを調整する副甲状腺ホルモンが何らかの原因で過剰に産生されカルシウム結石が発生したり、高尿酸血症患者で尿酸結石が発生したり、先天性疾患のシスチン尿症患者にシスチン結石が発生したりするなど、他の病気が基になって、尿路結石症が発生することもあります。また、食生活・環境・ストレスなども、結石症の発生と関連していると考えられています。しかし尿路結石発生のメカニズムは非常に複雑で、まだまだ解明できていないことが多くあります。

結石の成分については、大部分の尿路結石はカルシウム含有結石で、全体の80%以上を占めるとされ、そのほとんどが蓚酸カルシウムを含んでいます。その他、リン酸カルシウムを含む結石や、レントゲンに写りにくい尿酸結石、尿路感染により出来やすいリン酸マグネシウムアンモニウム結石なども、しばしばみられます。シスチン結石や2-8ジヒドロキシアデニン結石などの特殊な結石では、お薬でその発生を予防することが出来ますが、非常にまれなものです。

症状について

尿路結石の症状としては、様々なものがあります。その最たるものは、やはり尿管結石でみられる「痛み」です。突然襲ってくる、耐え難い片側の腰背部から脇腹、下腹部にいたる痛みが特徴です。細い尿管に腎臓で出来た結石が下がり、はまり込んで痛みが発生します。同時に血尿や吐き気・嘔吐を伴う場合が多くみられます。

腎結石においては、激烈な痛みを伴うものは多くなく、背部の鈍痛、血尿が症状としてあげられます。最近では人間ドックなど検診の普及により、腎臓の超音波検査で発見されたり、尿潜血を指摘されて受診した患者さんに見つかったりすることもよくあります。膀胱や尿道結石では、膀胱炎・尿道炎と同じような、頻尿、排尿時の痛み、残尿感、血尿のほか、結石がつまって、突然尿が出なくなったという症状で来院される方もいます。

診断について

尿路結石の診断には、いくつかの検査が必要です。尿検査では、血尿の有無を調べます。柔らかい尿路粘膜に硬い結石がこすれるため、ほとんどの結石患者さんにおいて、尿潜血や血尿が見られます。また、遠心分離した尿の沈渣を、顕微鏡を用いて観察することで、細かい結晶を確認することもできます。これにより結石の成分を類推して、治療に役立てることもできます。結石症に尿路感染を併発している場合には、白血球や細菌も観察することができるので、尿検査は非常に重要なものであると言えます。

次にレントゲン検査を行って、実際に結石の確認をします。また、超音波検査を行って、腎臓付近の細かい結石が無いか、尿の流れ道である腎盂や尿管の拡大「水腎・水尿管」が無いかを調べます。

大部分の結石については、これらの検査でその位置や大きさを確認できますが、レントゲンに写りにくい、大きさが小さい、骨盤の骨と重なってレントゲンでわからない、そのような結石の時には造影剤を用いて尿の流れ道を撮影したり、CT検査を行ったりして、結石を確認していきます。「泌尿器科の検査って、何か恥ずかしかったり、痛かったりするのでは?」と心配され、受診をためらわれる方もいらっしゃいますが、そのような事は全くなく、いずれの検査も比較的簡単で短時間に済みます。

治療について

前述の通り、尿管結石においては、非常に強い痛みを伴う場合が多くみられます。その際にはまず、坐薬や注射薬を用いて、痛みや尿管のけいれんをとる治療を優先的に行います。少し痛みが落ちついてきたところで、種々の検査をすすめて診断を確定させたのち、治療を始めます。

胆石症では、結石を溶かす治療法があります。しかし尿路結石は大部分がカルシウム含有結石のため、一部の特殊な結石を除き溶解療法は役に立ちません。5mm前後までの小さな結石については、結石をそのまま排石させる保存的療法が主体となります。実際には、尿管を広げる薬を注射や内服しながら、運動や飲水により排石を促します。

しかし、結石が完全に尿路につまり、腎機能を障害していたり、腎盂腎炎を併発していたり、両方の尿管が結石で塞がっている状況などでは、すぐに尿管ステントといわれる中空のチューブを尿管に留置したり、腎瘻(じんろう)と呼ばれるカテーテルを直接腎臓に留置したりする必要が出てきます。

5mmを超える結石は、自然に排石させるのが難しくなります。数十年前までは、効果的な破砕術や内視鏡手術がなかったため、開腹手術が中心でした。しかし結石は何度も再発するので、その度に手術をしていては身体がいくつあっても足りません。できる限り身体を傷つけず、結石のみを破砕して体外に排出させるための研究が進み、ここ20年の間で治療は一変しました。

その主なものが体外衝撃波結石破砕術(ESWL)です。第二次世界大戦時、ドイツ軍が敵の潜水艦を海中で破壊すべく、駆逐艦に搭載する衝撃波発生装置の開発を試みました。もちろん実現不可能でしたが、歳月を経て改良が加えられ、尿路結石を安全かつ効率良く砕く機器として生まれ変わりました。

現在、国内外に広く普及し、旭川でも当院を含めて5つの施設で使用されています。治療はベッドに寝た状態で行われ、結石の位置をレントゲンで確認し、破砕装置を身体の表面に当て、体内の結石のみを破砕します。40分程度で治療は終了。結石の状況にもよりますが、短期入院や外来通院治療も可能です。すべての結石が一回で壊れるわけではなく、結石の硬さや大きさにより、複数回の破砕治療が必要になります。

2016年度の当院の実績では、新規ESWL患者数は183名となっており、毎年200名前後の方にESWLを施行しています。ESWLで破砕が困難で、効果が十分に得られない場合には、麻酔下に内視鏡を用いて行う治療があります。中・下部尿管の結石に対しては、下半身麻酔下に、経尿道的結石破砕術(TUL)が行われます。尿道から直径5mm前後の尿管鏡と呼ばれる細い内視鏡を、尿管内に逆行性に挿入して結石を確認し、レーザーで破砕したり、直接鉗子で摘出したりするものです。

尿管鏡の届きにくい上部尿管や大きな腎結石に対しては、全身麻酔下に経皮的結石破砕術(PNL)を行います。背中から直径約1cmの穴を腎臓にあけて、そこから内視鏡を腎盂に挿入して、レーザーで破砕したり、直接鉗子で摘出したりするものです。これらの治療を、ESWLと併用することで、できるだけ開腹することなしに結石を体外に排出させていきます。

予防について

残念ながら、一部の特殊な結石を除いて、いまだ結石発生の原因がはっきりしないため、完全な結石発生や再発の予防法は確立していません。しかし、慢性的な脱水状態や水分の摂取不足により、尿中の結石形成物質の濃度が上昇し、結石が発生しやすくなります。発生・再発予防には、水やお茶を主体とした飲水の励行による1日2000ml以上の尿量確保が重要です。

よく1日の飲水量をお聞きになる患者さんがいらっしゃいますが、季節や気温、個人個人の運動量によっても、身体からの水分の蒸発量が変化して尿量も増減します。したがって、濃度の薄い尿をたくさん出すことが重要なので、尿量を目標にすることがポイントとなります。1回に膀胱にたまる尿量は250~300mlなので、1日6~7回の排尿、すなわち3時間毎に排尿できるように水分を十分摂ることを目標としましょう。しかし、いくら水分を摂るためと行っても、清涼飲料水、甘味飲料水、ビール、コーヒーの多量摂取は逆効果ですので気をつけて下さい。

また、動物性蛋白質や脂質、塩分、砂糖の過剰摂取は結石発生のリスクとなり、反対に穀物主体のバランスのよい食事内容、規則正しい食生活が予防に重要となります。夕食から就寝まで3~4時間程度時間をとる、すなわちその間はあまり固形物を摂らないようにする事も重要とされます。近年の食生活の欧米化が、結石症の増加につながっていることも十分うなずけます。


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